野性時代

誌上小説講座"


第8回「文章と描写」

「プロが教える『小説 野性時代』誌上小説講座」は、作家・大沢在昌さんを講師にお迎えし、12名の受講生が作家としての技術と心得を教わる様子を誌上でレポートする連載企画です。当ページでは、誌面の中から、特に重要なポイントのみをダイジェストでお届けしていきます。これではもの足りない、もっと詳しく知りたいという方は、是非「小説 野性時代」をお手にとってみてください。


第8回「文章と描写」


その1  その2  その3  その4

文章の持つリズム

――読み続けることが苦にならない文章――

▼あえてリズムを変える
同じ語尾が続く文章はよくないということがよく言われるが、例えばアクションシーンなどでは、短いセンテンスで同じ「○○た」という語尾を続けることによって、逆にリズム感が立ち上がってきて、それによってすごく興奮させられる文章になるというケースもある。小説の中で一つの山場になるようなシーン、クライマックスシーンでは、文章や文体が変化してもかまわないだろう。

文章は情報伝達の手段

――正確な文章を書け――

▼正確さと論理性
小説の文章では、エモーショナルなものを書きたいがゆえに、曖昧な表現を使ってしまいがちになる。それが文学的な表現であるかのような錯覚に陥ってしまうが、これは間違い。正確さの他にもう一つ大事なのは、「論理性」。自分の中のイメージを一生懸命言語化しようとして流されていったとき、書き手は得てして論理性を欠いた文章を書いてしまう。これを防ぐには、推敲以外に方法はない。

▼文章は武器である
「感情的な文章」と「感情を刺激する文章」は別。自分のもっとも伝えたい情報が、その文章によってもっとも効率的に読者に伝わっているかどうかを冷静に見ている自分、「第三者的な自分」が、書いている最中にも二割程度、常に頭の片隅に存在していることが必要となる。

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文章のテクニック

▼比喩のさじ加減
比喩とは、三行費やさなければ説明できないことを一行で説明できる、非常に有効なショートカットの手段である。ただし、比喩の使い方を誤ると、小説が大失敗に終わることもあるので注意が必要。

▼描写の濃淡
よく「べったりした描写」という言い方をするが、アマチュアの書き手の場合、描写に濃淡がなく、どのシーンも同じ厚さでべったりと塗ってしまいがち。同じように厚塗りしてしまうと、どれが大事な要素なのかが読者に伝わりにくくなってしまう。

▼人物をひと言で表現しろ
自分の作ったキャラクターのことをよくわかっていれば、服装や顔立ちなどの説明を一切しなくても、その人物がしゃべる場面、歩く場面、誰かと街で出会う場面を書くだけで、読者の中にそのキャラクターのイメージが立ち上がってくるはず。

▼四文字熟語
「当意即妙」のような、他の言葉で言い表すのがなかなか難しい四文字熟語は使ってもいい。しかし、「豪華絢爛なパーティー」のような四文字熟語は使用を避け、読んだ人の頭の中に、「豪華絢爛」なイメージが浮かび上がるように描写する、そういう文章が小説には必要。

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描写の三要素

――シーンに応じて割合を変えろ――
描写とは、「場所」であり、「人物」であり、「雰囲気」。この三つの部分を伝えるのが描写であり、それを下から支えるのが文章である。このうちのどれか一つの説明だけを突出させてはいけないし、三つを同じようにべったりと描写するのもいけない。「場所」の説明の中で、光の問題、温度の問題、においの問題などはつい忘れてしまいがちなので気をつけること。

▼擬音・オノマトペ
個性的な文字選びをして、それが論理的な描写でつながっていけば、「また、この人の作品を読みたい」と思わせる文章になり、読者にとって印象に残る書き手になれる。

▼外来語
カタカナでルビを振ったり外来語を並べ立てるとかっこよく見えるということもいくらかはあるが、選考委員は「子どもっぽい」と感じる。「自分よりも年上が読む」というつもりで小説を書くこと。

▼読者の年齢≠主人公の年齢
小説を読むとき、人は自分の年齢を忘れる。自分が大人だからといって、主人公がみんな大人ばかりではつまらない。

▼日本文学と海外文学の違い
海外の文学作品においては、文章は油絵。厚く厚く塗り込む。重ねて重ねて、描写を追い込んでいく。また、独特の比喩表現を数多く用いるのも、海外、特に英米では文学性の高い描写とされている。一方、日本は水墨画の世界である。文章を書き慣れた老練な作家になればなるほど、細かい比喩や描写が無くなっていって、非常にシンプルでさっぱりとした文章が連なっていく。

▼改行のテクニック
まったく改行のない長い文章が効果的な場合もあれば、ページの下半分がスカスカになるような、改行だらけの文章が効果的な場合もある。いつも同じ密度の文章が続いていくと、立たせたい一文が埋没してしまうので、あえて改行を少なくして、長い文章と長い文章の間にポンと一行だけ短いセンテンスを挟んでみると、その一行は非常に読者の印象に残るものになる。

▼普通の言葉で新しい表現を
難しい言葉を使えば小説が格調高くなるというのは誤解。川端康成さんの『雪国』に、〈夜の底が白くなった。〉という文章がある。「夜」も「底」も「白い」も普通の言葉で、難しい言葉は一切入っていないのに、「夜の底が白くなる」という、これまで誰も使ったことのない表現によって、なんともいえない情感、川端康成の世界が広がっていく、イメージが喚起されていく。

▼新人作家に何を期待するか
――発想・着眼点・情熱――
「発想」というのは、言ってみれば一回限りで終わってしまうアイデア。それに対し「着眼点」というのは、世の中に対して自分がどんな立ち位置にいるのか、どういうポジションから世の中を見ているのかということ。「着眼点」が見つかれば、これ一つでいくらでも小説が書けてしまう。そして「情熱」。自分が書きたい世界を持っているか。「作家になりたい」のではなく、「小説を書きたくて書きたくて、書き続けた結果が、作家という職業である」ということ。

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質疑応答

講座中に出た質問と、それに対する大沢さんの回答をまとめました。

▼人物描写のコツ
Q.先日読んだ古井由吉さんの文章に、人物の描写を入れ始めるとキリがなくなって、どんどんそこに埋没してしまうから一切入れない、と書いてあったが、それでもいいのだろうか?
A.キャラクター描写において、年齢や職業、顔立ちや服装などの不要な情報はいらないという点では古井さんも私も同じ。文学の場合、市井の普通の人たちの間で起こるちょっとした不思議や小さな変化が小説の材料になるので、それほどキャラクターを説明する必要がないということはあるのかもしれない。一方、エンターテインメント作品では非常に個性的な人間やヒーロー、ヒロインが登場する場合があり、その説明のために作家は一生懸命言葉を選んだり、表現を工夫したりする努力が必要。

▼文法よりリズム
Q.文章読本に「副詞はなるべく入れるな」と書かれていたが、例えば新人賞の選考会などで、そういう観点から評価されることはあるのか?
A.それはない。副詞や形容詞、接続詞といった構文解析的な観点ではなく、読んでいて心地いい文章かどうかというところを選者は見ている。不安になったら、声に出して読んでみるのも一つの方法。

▼シーンの替えどき
Q.こういう場合はシーンを替えるというポイントなどあれば知りたい。
A.私の場合は、大きく場所を動くときと、時間がかなり流れるときはシーンを替える。頻繁にシーンが替わり、そのたびに章まで替えていると、読者はあらすじを読まされているような気になってしまう。一番簡単な目安は文章量で、長編の場合、四〇〇字詰め原稿用紙で五枚から一〇枚くらい書いたら、一行あけたり、章を替えたりしてもかまわないだろう。

▼推敲の方法
Q.推敲について教えてほしい。何百枚もの長編の場合、最初から最後まで何度も読み返すのか? それとも五〇枚単位とか、書きながら推敲するのか?
A.書き下ろしか連載かで方法は若干変わるが、私の場合、基本的にはその日の仕事を始める前に、必ず前回書いた分を読み返す。そして、全体を書き終わってゲラになった時点で、もう一度頭から読み直す。

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