大森望氏書評
小説の力を再認識させてくれる、波瀾万丈の娯楽大作。
(『本の旅人』2012年8月号掲載)

 山田宗樹の新作『百年法』は、不老長寿を可能にする医療技術が一般化した並行世界の近未来日本を舞台に展開する、無慮1300枚の書き下ろしサスペンス巨編。
 タイトルの“百年法”とは、不老処置を受けてからの寿命を百年と定める法律、生存制限法の通称。いわく、「不老化処置を受けた国民は処置後百年を以て生存権をはじめとする基本的人権はこれを全て放棄しなければならない」
 この突拍子もない設定を可能にするため、改変世界の歴史が、19世紀にまで遡って細かく設定されている。きっかけは、リョコウバトの不老個体から発見されたウイルス。そこから遺伝子操作で生み出されたHAV(ヒト不老化ウイルス)の接種により、早くも1932年には人間の不老化が実現した。1940年には、米国市民権保有者への接種(HAVI)がスタート。同時に、永遠の生命がもたらす問題を回避すべく制定されたのが生存制限法だった。
 この世界における日本は、1945年に6個の原爆を投下されて降伏し、アメリカの占領下で日本共和国が誕生。ほぼ同時に、百年法とセットでHAVIが導入された――。
 この経緯からすれば、百年法を日本国憲法のメタファーだと思って読むこともできるだろうが、実際に物語がはじまるのは、その制定から100年余を経た2048年。
 ほとんどの日本共和国民は20代でHAVIを受けるため、街を歩く人間は、いまや(外見上)若者ばかり。老いの追放とともに、定年退職や“老後”もなくなり、子供が老いた両親の面倒をみる習慣が廃れたことから、家族の概念は激変。戸籍が廃止されて、国民はIDをもとに個人単位で管理され、何度も結婚と離婚を繰り返すのが当たり前になっている。その一方、若さと活力を失った社会は停滞し、企業に就職できない勤労者はユニオンに入って、三カ月ごとに職場が変わる派遣労働に従事している。
 進歩が止まり、閉塞感が漂うこの社会状況を打破する切り札となるのが百年法の施行。だが、いくら既定路線とはいえ、はたして政府はそれを断行できるのか? もし施行されれば、最初の三年だけで、適用対象者は百万人以上。彼らは一年の猶予期間中に、各地に設けられたターミナルセンターへと赴き、安楽死処置を受けなければならない(その期間を過ぎると、IDを停止され、事実上、社会生活が不可能となる)。
 冒頭、主役(のひとり)として登場するのは、内務省生存制限法特別準備室長として同法の施行に邁進する遊佐章仁(83歳)。だが、戦後すぐにHAVIを受けた太平洋戦争経験者たちが120歳を過ぎたいまも政財界や省庁のトップに君臨するため、改革は容易に進まない。第1部は、エリート官僚・遊佐の苦闘を軸に、ユニオンで働く仁科蘭子(98歳)や、伝説のテロリスト・阿那田童仁を執拗に追いつづける刑事・戸毛幾太郎などのパートを交え、異形の日本共和国を生々しい迫力で鮮やかに描き出してゆく。
 オーウェル『1984年』や、伊藤計劃『ハーモニー』の例を引くまでもなく、未来社会に託して“いま、ここにある問題”を描くことは、SFの基本的な機能のひとつ。『百年法』は、波瀾万丈のエンターテインメントとして抜群におもしろいだけでなく、原発再稼働をめぐる問題や消費税増税騒動、生活保護の不正受給、死刑制度廃止論議、ワーキングプア、監視社会など、いまの日本が抱えるさまざまな問題に、まったく新しい角度から光を当てる。
 不老化技術をテーマにすることで、長いスパンの時間を描けるのも特徴。第3部は2076年、第3部、第4部は2090年代末が背景となり、百年法施行による日本社会の思いがけない変化が語られる  読み出したら止まらない強烈なストーリーテリングを武器に、異形の日本を壮大なスケールで描く群像劇。その意味では、浦沢直樹『20世紀少年』がライバルか。  小説の力を再認識させてくれる、波瀾万丈の娯楽大作だ。

(おおもり・のぞみ 文芸評論家)

1945年、太平洋戦争終結。日本には原子爆弾が6発投下され、都市部は壊滅。
人口は半減。日本全土を支配下に置いたアメリカは天皇制を廃し、共和制を敷いた。
そんな中、GHQはすでにアメリカで実用化されていたヒト不老化技術(human-ageless-virus inoculation:HAVI)を日本に導入することを決定する──。
そのHAVIの導入時に一つの法律が制定された。生存制限法。
通称「百年法」。
「HAVIを受ける者は、処置後百年を経て、生存権を始めあらゆる権利を放棄することに同意せねばならない」
つまり、百年後には死ななければならない。
そんな日本で、その最初の百年が迫っていた……!? 
HAVIをつかさどる官僚・遊佐章仁、国益を追求する政治家・永尾聖水、母がまもなく百年法による死を迎える大学生「僕」、HAVIの世界に反旗をかかげる「阿那谷童仁」
……様々に思惑が渦巻く“世界”はどこへ向かうのか!?

100年間の不死が与えられた人間たちが、強制的に死を迎えるとき、果たしてそれを受け入れることはできるのか——? 支配と被支配、欲望と幻。近未来の日本に想像力の射程を延ばし、価値観の揺らぎを容赦なく突きつめる。人間の根源的なあり方を問う渾身の大作1260枚。その作品の奥深くに迫ります。
インタビュー・構成 タカザワケンジ

不老不死を実現する技術が開発され、誰もが若いまま生活できるようになる。しかし、その寿命を決めた「百年法」が施行される直前になり、国中が混乱に陥る──。

 『百年法』のアイディアが浮かんだのは10年くらい前のことでした。何かで「不老不死は人類の究極の夢だ」と言われているのを聞いて、でも、本当に実現してしまったら、その先の社会はどうなるんだろう……と思ったのがきっかけでした。
 思いついてすぐに、この設定は面白い! と思ったんです。普通の社会では、「生きることは善である」と誰もが疑わない。しかし、不老不死が実現したら「生きる」ことは社会のためにならなくなるかもしれない。社会を活性化させるために生きる期限を決めた社会では、決められた期間を超えたら生きることが罪になる。この価値観の逆転から、面白いエンターテインメントを生み出せるんじゃないかと思いました。
 しかし、書き始めるまでに長い時間がかかってしまいました。ここまで完全なSFは書いたことがなかったのと、書くなら社会全体を描くようなスケールの大きなものでなくてはと思ったからです。アイディアを思いついた当時はまだ作家として駆け出しで、自信がなかったんです。
 小説にするにあたってまず考えたのは、不老不死が実現した世界をいつに設定するかでした。着想したときには漠然と近未来を想定していたんですが、不老不死が実現してから百年後に「百年法」をめぐる物語が始まるわけですから、ずいぶん先の話になってしまう。何百年も先の話になっては、いくらなんでも自分の想像力では書き切れないと思ったんです。
 じゃあ、スタートを早めよう。そこでパラレルワールドという設定を思いつきました。日本が戦争に負けて、アメリカから不老不死の技術が持ち込まれたという設定にすれば、戦後から約百年後から始められる。それならいまの社会の延長線上で未来を書けると思いました。  『百年法』は僕がこれまでに書いた小説のなかでいちばんボリュームのある作品になりました。構想を編集者に話したとき「千五百枚くらいですかね」と言われてえらいことになったと思ったんです(笑)。それまで僕は900枚までしか書いたことがなかった。『嫌われ松子の一生』がちょうどそれくらいです。しかし、たしかに『松子』以上の分量が必要な小説でしたね。
 『百年法』で僕は、は百年法に翻弄される一般の人たちだけでなく、百年法を施行する政府中枢の権力者たちを描いています。僕にとって政治を正面から取り上げて書いたことも初めてですが、政治自体に興味があったわけではありません。僕が書きたかったのは「歴史」です。架空の国の50年間に渡る歴史の流れ、時間の流れを感じてもらいたかった。そのためには政治を書かないわけにはいかないと思ったんです。政治は世の中の土台。政治が揺らげば世の中ぜんぶが揺らぎます。揺らいでいる土台のうえで、普通の人たちがどう生きるのかを書きたいと思いました。
 僕は小説を書いていると、しょっちゅう、「俺はつまらないものを書いているんじゃないか」と不安になるんです。この作品は長い分だけ不安を感じることが多かった。それでも筆を止めなかったのはこの話を書くと編集者と約束したから。もしここで投げ出したら、小説家失格だ、と。それだけに完成した作品がこうして本になることにいつも以上にホッとしています。

レイ さん (30代女性 主婦)

山田宗樹さんの本は『嫌われ松子の一生』しか読んだことがなくそのイメージで読み始めたら良い意味で大きく裏切られました。
こんなに壮大で大胆なストーリーだとは。
始めの数ページでぐいぐいと引きこまれたのは久しぶりです。
「これはとんでもない本を読み始めてしまったかもしれない」と思ったのが第一印象でした。
ボリュームがありますがテンポよく流れるような登場人物のセリフのせいか映画を観てるような感覚。
夢中でページをめくりました。
寝る間も惜しんでページをめくった小説は久しぶりです。
間違いなく世間を賑わす話題作になるだろうなと確信しています。
本を読む人はもちろん、普段本を読む習慣がない人にもお勧めしたい作品です。
睡眠時間が少なくても幸せでした。
これからも応援させて頂きます。

藤平 さん (40代女性 主婦)

上下2冊でかなりの厚みがありましたが、先が気になり、ほとんどぶっ通しで読みました。
間違いなく、今年読んだ本の中で忘れられない本になると思います。
2048年のシーンから始まるので、最初は、自分とはあまり関係ない近未来小説か、SFなのかと思いました。しかし、実際読んでみると、今の自分、未来の自分に深くかかわってきて、大変考えさせられる内容の物語でした。
「自分のために、また他人のために生きること」
「死ぬこと」
「自分の思いを貫くこと」
「家族」
…たくさんのメッセージが込められている本でした。
作者の圧倒的な筆力に感銘しました。
面白く、かつ私たちの心に警鐘を鳴らすような壮大な物語でした。
読みごたえもありましたし、非常に余韻が残る物語でした!

ぶらっくほーる さん (20代女性 学生)

この作品はすごく衝撃だった。
感動、驚きというよりも読んでいてとても怖かった。
決してこれがフィクションだと思えない。
山田宗樹さんは書き方がとても上手だ。
400頁にも及ぶ長編だったが息つく暇もなく一気に読んでしまった。
様々な伏線、思わせぶりなセリフ、最終的に「そうだったのか!」と気付かされる。
クライマックスでは結果を先に見てしまわないように行を手で隠しながら読んだ。
本当に面白い。
最初から最後までドキドキさせてくれた。
夜も徹するくらい夢中になってしまった本に久しぶりに出会いました。
色んな人に薦めたいと思います。
今回、山田宗樹さんの作品は初めてだったのですが、もっと他の作品も読んでみたくなりました。
これからも頑張ってください。応援しています。

関口氏(ヨドバシAKIBA店)

「百年法」とても良かったです!
ここ数年でオススメ本を選ぶなら、「ジェノサイド」と「百年法」!!
それくらいスゴイ

竹山涼子氏(SHIBUYA TSUTAYA)

上下巻合わせて800ページ超なのに、あっという間に読めました。
100年後の死を受け入れ永遠の若さを受け入れるか、老いていく肉体を受け入れいつ訪れるかわからない命の終わりを意識しながら精一杯生きるか。
どちらを選ぶのか。その問いを投げかけてくる。
そのことを自分だったら、と考え続け、物語はどう進むのか、と読み続けました。

 
   

柏井伸一郎(角川書店編集担当)

読み終えた時、心震える物語があります。
『百年法』はそんな作品です。
ひとりの人間として、この物語に出会えたことを誇りに思います。
ぜひ、読んでください!

山田宗樹(やまだ むねき)

1965年生まれ。『直線の死角』で第18回横溝正史賞を受賞しデビュー。
主な作品に『黒い春』『ジバク』『魔欲』『乱心タウン』など多数。
特に『嫌われ松子の一生』は映像化もされた。

 

代体

科学が倫理を駆逐する――
「百年法」を超える近未来エンタテインメント!

人間の意識を移転させる技術がビジネスとなった世界。
意識を容れることができる身体形の器「代体」の大手メーカー営業マンの八田は、代体に絡む利権や悪意、壮大な陰謀に次第に巻き込まれてゆく――。

発売日:2016年 05月 28日
定価(税込):1836円
四六判
ISBN 978-4-04-104126-0-C0093

 

直線の死角

注目の作家・山田宗樹の第18回・横溝正史賞受賞作、
待望の刊行!!

やり手弁護士・小早川に、交通事故で夫を亡くした女性から、保険金示談の依頼が来る。事故現場を見た小早川は、加害者の言い分と違う証拠を発見した。
第18回横溝正史賞大賞受賞作。

定価(税込):596円
文庫判
ISBN 4-04-371201-4-C0193

魔欲

襲いかかる死の衝動、 緊迫の社会派サスペンス!

広告代理店に勤める佐東は、プレゼンを繰り返す忙しい日々の中、自分の中に抑えきれない自殺衝動が生まれていることに気づく。無意識かつ執拗に死を意識する自分に恐怖を感じ、精神科を訪れるが、そこでは!?

定価(税込):720円
文庫判
ISBN 978-4-04-100171-4-C0193