青春文学大賞
「青春文学大賞は如何にして無謀化したか」
野性時代青春文学大賞 発進前夜座談会

■「せっかくだから、どこよりも無謀に 」(野性時代8月号)
■「そもそも青春小説って、何だろう? 」(野性時代9月号)
■「小説であることの意味、青春文学の意味 」(野性時代10月号)
□「青春文学大賞は如何にして無謀化したか 」(野性時代11月号)
■「徹底論争、最終候補作はこれだ! 」(野性時代12月号)

現在9月中旬、編集部には暗雲が垂れ込めている。
そのわけは、そしてその原因は全てこの日の会話に端を発していた--。
数々の無謀を盛り込んだ青春文学大賞、そのシステムとスケジュールは、
高い理想とアツい脳味噌で、ある爽やかな午後、 空調の壊れた会議室で一気呵成に決められたのでした。
我々はいかに燃え上がり、決意し、そして現在困難の只中にいるのか。
……こうなったらもう全部読んでやってください。

日時:2005年・初夏某日及び9月中旬
出席者:本誌編集長・新人賞企画チーム犬&猿

成功している新人賞とは?
編集長(以下編と略) さて、お互い気が済むまで理想を語り合ったところで、そろそろ実務っぽい話をしようか。

 僕らはとにかく新しいことを、という命題をずっと抱えながらブレストしてきたわけですけど……とはいえ、システムを創るにあたっては、既存の他の賞の成功例くらいは念頭に置いておくべきかと思います。

 そうだね。俺がまず成功例と思うのは、小説すばる新人賞。賞の歴史は長くはないけれど、小説界を担う新人をあれだけ輩出しているのは、凄いことだよ。

 何故、それが可能になっているんでしょうか。

 やはり、受賞者を雑誌できちんと育ててゆく、という態勢ができているのが、大きいと思う。授賞だけで終わらず、誌面に連続登場させ、とにかく数を書かせてどんどんグレードを上げるとともに、その作家の文壇へのアピールも同時に行われている気がする。
もうひとつ、河出書房新社の文藝賞があるね。田中康夫、山田詠美、芦原すなお、最近では綿谷りさなど、その時代の空気を最も敏感に反映した作品は、かなりの確率であそこから登場している……これは、卵とニワトリの話みたいになっちゃうんだけど、あそこには「そういうものが生まれやすい風土」があり、それが「そういう空気」を持ったクリエイターを惹きつけ、結果的にますます「風土」が濃厚になってゆくという……初期にあった幾つかの幸運な偶然を、編集部がうまく守り育ててきている気がする。


 最近では「メフィスト賞」……文藝賞とは違った意味で、「今、ここでしか味わえない空気」を、作家・編集部・読者が幸福に共有している。ある種のサークル感なんだけど、それが数十万の人口を形成すれば、もう立派にジャンルなんですよね。

 3者とも、その賞固有の何かを、雑誌媒体を使って継続的にアピールしつつ、作家を育てていくという態度は共通していますね。僕らには雑誌というツールがあるんだから、新人賞に関しても、それは最大限に活用すべきでしょう。


賞のキモは「連載権」!
 例えば、どういうことが考えられるかな。

 副賞で、次回作の雑誌掲載権ってどうですかね。

 それだとまだ弱い気がする。「連載権」はどう? 連載ができるところまで、編集部が責任を持ってサポートします、という……前回猿さんが言っていた「職業として書き続ける」という命題にも合致していない?

 うわ、また大変なことを言い出したな。それってカッコいいけど、本っ当に大変なんだよ、分かってる?

 分かってない、かもしれないですが……でも、言ってみたくないですか。「賞品は連載権です」(笑)。

 うーむ……。でも、そのくらいのことを僕ら自身も負わないと、最後発の賞に書き手はついてきてくれないかもしれないですね。やってみませんか。


作家は、最強の読み手だけれど――

 ま、まあ……考慮に入れよう(汗)それより先の問題として、審査システムはどうする。
俺はいくつか新人賞の運営を経験して、作家って本当に最高の読み手だと思っている。本当に作家の読み方って、編集者の思い入れや計算を超えた凄みがある、そしてそれは、往々にして本当に結果となって的中するんだよね。
ただ、今回の新人賞に関しては、通例通り作家にお願いするのが、本当にいいのかどうか、正直迷っている。

 でも、応募者としては「この作家に読んでもらいたい」というのは、大きなモチベーションになりませんか。

 ただ、1回目の話であったように、どの雑誌も「頼みたい相手は皆同じ」みたいな状況があるんですよ。それは、審査員でも同様だと思う。賭けてもいいけど、この場で皆が「この人にお願いしたい」と思っている作家って、既に他の賞の審査委員をやっている。それなら、仮に引き受けて貰えたとしても、書き手はその人が関わっている、もっと実績のある賞に応募しちゃうと思いますね。

 それはそうだよね。

 じゃあ文化人、とかタレントという発想も違うと思う。そういえば、成功例としては本屋大賞というものもあって、あれは「売り手」というこれまで水面下にあった最大のファクターを表舞台に上げたんだよね。

 ならば、さらに「読み手」もそこに入ってもらうというのはどうですか。

 そうだね。先日ある作家が、今は「文壇」というものがトップダウンで作品の価値を決める形の他に、ボトムアップで読み手側が価値を創ってゆくことが急速に肥大している時代だ、というんだよね。
確かに、ネットのインフラが整ったことで、それはどんどん現実化している気がするんだ。せっかく最後発で新しいことができるのなら、その流れに乗ってみるのもいいかもしれないね。

 ネット投票、か。

 さらにそれを書店員・読者代表と編集部で最終選考する、と。面白いですね。


最大の「無謀」はスケジュール
 ところで、スケジュールなんだけど――とにかく、締め切りから選考、発表までのスピードは早いほうがいいと思います。既に各賞の今年の募集は始まっているわけだから、多少なりともそれに追いつかないと。

 で、その全てを公開して、読者にライヴ感を共有してほしい。

 具体的にどうやるんだ、それ。

 そうですねー。例えば、この会議の模様をそのまま載せていっちゃう、とか。
一応テープ回してるし。

 俺、これまでに不用意なことテンコ盛りで言ってる気がするんだが(笑)。

 それは、全員そう。一蓮托生で文芸の未来に殉じましょうよ(笑)。

 (苦笑)……で、各段階ごとに、審査の模様を誌上とネットで中継するわけですね。

 そうそう。

 そうするとスケジュールは……待てよ、これかなりきつくない?

 きついなー。まあ、中長編賞でもあるし、初回は200来れば御の字だろうから、編集部総出でやれば対処できるだろう。やってみるか。

 200超え……しますように(祈)。


どうするどうなる編集部
――そして数ヶ月後。9月中旬。

 何か最近編集部が狭いぞ。それに昨日から犬に送ったメール、全部戻ってくるんだけど、俺、ちょっと寒気が……。

 あ、気づいちゃいましたか。

 ここ数日、一日百単位でメール応募があるんですよ。片っ端から開いてるんですが、もう容量的に限界が……

 おい、いったいいくつ来てるんだ。

 今日現在で、942通。消印有効なんで、郵便でまだ来るかもしれませんね。
ははは……ちょっと大変なことになったかも。

 どうするんだ、一体どうやって期日までにそんな量を読めるんだよ。

 とりあえず書籍班に応援頼みましたけど、ま、当分僕らは休日なしですね。

 ばんざーい、ばんざーい!(ヤケ)

 やめてくれ、頭痛がしてきた。……そんなわけでめでたくも凄まじい状況になってきた野性時代青春文学大賞。一体どうなるのか我々にもわかりません。とりあえず、素晴らしい才能との出会いと、編集部の壊滅回避を祈りつつ、今月は終わります……。

そして野性時代は断言した。全ての偉大なる作品は、青春文学なのだ。