
政府から公式には認められておらず、ただの噂話にすぎないはずなのに確かに存在し、10年程前からこの国を侵食しつつある謎の“虫”。それはどこからともなく現れて少年少女に取り憑き、夢を喰らって成長する。
そして、夢を蝕むお返しとばかりに宿主に超常の力を与え、夢を喰われきった宿主に死が訪れるまで居座り続けるのだ。
一度“虫”に憑かれたが最後、その存在から逃れることは叶わない…。
そんな、絶望が静かに伝染していく世界で、ひとりの少年と少女の物語が始まる。
少年の名は“かっこう”。特別環境保全事務局に所属し、初任務についた新人局員だった。
少女の名は“ふゆほたる”。触れたものすべてを破壊する雪を降らせる能力を持つ、強力な“虫憑き”。
雪の降る真っ白な世界で彼らは出会い、たったひとつの約束を交わす。
そして、少女は少年の手によって、欠落者になった。
――四年後。何ひとつ変わったところのない高校生・薬屋大助は、ショートカットが似合う可愛らしい少女と出会う。
彼女の名は杏本詩歌。初めて視線があったそのときから、彼らは惹かれあい、少しずつ心を通わせていく。
それが、運命的な再会とは知らず…。

虫憑き
正体不明の“虫”に寄生され、超常の力を与えられた少年少女のこと。夢を喰うという“虫”の特性からか、“虫憑き”になるのは主に夢と希望に溢れ多感な、若者世代を中心としている。普通の人間ではあり得ない力を持つため、恐怖と差別の対象となっている。
始まりの三匹
エルビオレーネ(大喰い)、ディオレストイ(浸父)、アリア・ヴァレイ(三匹目)の三体を指す。人間の夢を喰い“虫憑き”にしてしまう能力を持つ。それぞれ嗜好や生まれる“虫憑き”のタイプが異なるうえ、人間であるのかどうかさえ解明されていない謎の存在。
欠落者
“虫憑き”が自身に寄生している“虫”を殺されると陥る状態のこと。夢を忘れ、自発的な感情や意志、記憶などを失い、他者からの命令がなければ食事を摂ることもない。一度欠落者になると、二度とその状態から回復することはないとされている。
特別環境保全事務局
略称“特環”。政府の公式発表では存在していない“虫憑き”を、あらゆる特権を用いて捕獲し、一般社会から隠蔽する目的で作られた秘密機関のこと。また、“虫憑き”の捕獲には、組織の支配下に置かれた同じ“虫憑き”を、局員として派遣している。
むしばね
“虫憑き”に“虫憑き”を狩らせ、次々と欠落者を生む特環に反発する、在野の“虫憑き”が結成したレジスタンス組織。特環を潰して“虫憑き”が自由に安心して暮らせる世界を作ることを目指し、特環との戦闘や“虫憑き”の保護などを行っている。