元長柾木(もとなが・まさき)
1975年生まれ。ゲーム作家、小説家。ゲームの代表作に「Sense Off」「フロレアール」など。その独特のセンス・オブ・ワンダーの感覚を小説の世界に持ち込み注目を浴びる。「新現実」(角川書店)のほか、ファウスト(講談社)、「SFマガジン」(早川書房)など、様々な媒体に作品を発表。ゲーム「未来にキスをSE」13cmより発売中!






ある日、電車の中で全身黒ずくめの妖しい女・飛鳥井全死に話しかけられた女子中学生・荻浦嬢瑠璃。最初は拒絶するも、執拗に追いかけられ繰り出される全死独特の論理攻撃。「わたしの奴隷になるか?」その一言で最初は頑なだった嬢瑠璃の中で次第に何かが変わり始め、そしてついに嬢瑠璃は支配下に堕ちていく――(第一話 愛の敗北)。飛鳥井全死に関わってしまった美少女たち。果たして彼女たちは救われたのか、傷つけられたのか!? そして、その先に待ち受ける“攻略”の真の意味とは!?
天才・ゲームクリエイター元長柾木の“攻略”が始まる!






この小説(この内容)を書こうと思ったきっかけは?
 依頼があったから、という身も蓋もない話を脇に置くとすると、「書かされたから」というのが正直なところです。
 これは、「依頼があったから」というのとは全然違います。担当者に無理やり書かされたとか、お金が貰えるから仕方なくとかいうことではなくて、世界からの圧力のようなものです。今現在の世界があって、その世界から必然的に要求される物語がある。言ってみれば、世界からの声に従って、という感じです。
 例えば人類史の始まりに『ギルガメシュ叙事詩』がある。これは要するに英雄ギルガメシュが「死」を獲得するお話なんですけど、死を獲得する、自覚するというのは人間を人間としてあらしめている重要な契機の一つで、これはまさに人間の歴史の始まりという時代に必要な物語だったんです。
 そんな風に、時代は、世界は、物語を要求する。その声を聞いて、その声のままに書く。やりたかったのは、そういうことです。
 ああ、でもそれは「依頼があったから」というのと同じことになりますね。要求も依頼も同じようなものですから。という訳で質問に答えるなら――
「きっかけは、世界に依頼されたから」

執筆にあたって心がけた点は?
 とにかく音読して気持ちいい文章を、ということです。音楽のように、流れるように読んで貰えるよう書きました。大雑把なところでは息継ぎの位置とかですし、細かいところでは符割りみたいなものを意識しました。
 符割りというのは音符の割り振りのことですけど、日本語でも同じで、1音1音、それぞれ長さや音程や強さがあって、決して均一ではありません。それをうまく組み合わせてやらないと、たとえ意味としては通じていたとしても、言葉のメロディとしていびつだったりする。個人的に音楽のように聴こえる文章が好きなので、そんな風に聴こえてくるようにと考えながら書きました。
 あとは、一人称体の小説なので、語り手については、できるだけ小説の世界に入っていくための「目」として、なじみやすいように描きました。語り手は端的に言ってしまえばシリアルキラーで、一般的には感情移入できるタイプのキャラクターではないんですが、それでも目を離すことができない、読者が彼と意識を同化させざるを得ないような、そんな造形を目指しました。

実際に書き上げて、ゲームシナリオと違う部分、同じだと感じた部分は?
 文章というのは普通、情報を伝達するという役割を持っています。小説でもそうです。でもゲーム(特に断りがなければアドベンチャーゲームのこと)ではそれだけではありません。
 ゲームでは、文章が表示される、マウスをクリックする、文章が表示される、マウスをクリックする……という繰り返しによってゲームの世界に没入していくんですが、この没入のシステムは、マウスクリックというアクションに対して文章表示というリアクションが返ってくるという、アクション−リアクションの関係によって成り立っています。これは例えば、弾を撃つ、敵機を撃墜する、という繰り返しが没入を生む、シューティングゲームのやり口と基本的には同じものです。ここでは、文章の持つ役割は、「情報を伝達する」だけではなくて、半分くらいは、シューティングゲームの敵機のような、グラフィカルなオブジェクトとしてのものになっています。
 で、『飛鳥井〜』は小説なので、「情報を伝達する」だけという単機能の文章を書かなければいけない訳です。ある程度はそれは意識してるんですが、でも振り返ってみれば会話とかには特にゲームテキストのノリが残っていると思います。そういうのが小説の中に入り込んだらどういう風に見えるのか、というのも楽しめるんじゃないでしょうか。

「同じ」なのは、物語を終わらせなければならないということです。いや、当たり前なんですけど。
 ただマルチシナリオのゲームというのは、かなり「終わらせる」ということを求められるもので、それは例えば、全てのシナリオを見終わった後に何らかの大オチがあったり、そこまでいかなくても統一的なテーマが感じられたり、という風に。
 そういうゲームの世界にいたもので、終わらせること、伏線を回収することを、多分必要以上に意識していると思います。
 ……って、「同じこと」というより「違うこと」を話してるような気がしますが、「終わらせなければならない」というのは小説だろうがゲームだろうが同じなので、その部分がより強化された小説ですよ、という風に受け取って下さい。

 それから重要なのは段組です。今回お願いして2段組にして貰ったんですが、それはなぜかというと1行あたりの文字数がゲームとほぼ同じになるからです。だから、ある程度はゲームをプレイするような感じで読んで貰えるかな、と思います。

一番読んでほしいところ、もしくは読みどころは?
 最初の話と重なるんですけど、一言で言えば「世界を感じて欲しい」ですね。
 一番に心がけたのは、世界からの声に耳を傾けて、その要求するところを忠実に描くということです。妙にメガネキャラ含有率が高かったり、えろシーンがあったり、その他色々趣味的なところはありますが、そういうのはまあともかく、基本線として「世界の要求に忠実に」ということを念頭において書いています。
 といっても漠然としすぎていると思うので少しだけ具体的なことを言うと……我々の世界に対する認識というのは、かなり人工的な価値観に支配されているところがあって、実は結構世界そのものとはかけ離れています。現代というのは価値観の移行期にあって、そのことは僕たちはみんな肌で感じてるんですけど、ただこの「肌で感じている」というのが厄介で、感じてるから判ってると思ってそこで止まってしまうところがあります。動物園からサファリパークに移された動物が、「やった、野性に帰れた!」って喜んでるみたいなものです。あるいは、「やばい、野生怖い!」とか。どっちにしても、環境が変わったことは理解しているものの、どのように変わったのかというのは見えていない。
 そんな僕たちの現状に対して、世界の側が何か言っている。その声にならない声に忠実に、ということを心がけました。
 ともあれ、今の世界をそのまま描いたつもりです。物語として表現されていることもあるし、世界観にもちろん反映されているし、執筆スタイルにしてもそうです。色々な部分から、「世界」を感じて欲しいです。まあ「忠実に」とはいっても、そこは小説なので真っ正直に書いている訳ではなくて、色々と処理を施してるんですけれども。

メッセージをお願いします。
 ……色んなことを言ってますけど、実際のところはそんなに小難しい話でもありません。ちょっとばかりエキセントリックなキャラクターたちが右往左往している、まあスラップスティック・コメディのちょっとした変種みたいなものです。おもちゃの散らかった子供部屋みたいな小説なので、気軽に読んでくれたらそれで全然問題ありません。「うわ、アホ発見」みたいな面白がり方でOKです。
 それで、読んでいて「うーん」と引っかかるところがあったとしたら、それは自分の周りの世界が何か囁いてるんだ、なんて思ってちょっと考えてくれたら嬉しいです。

 ところで、最後に一つ。
 今まで自分が作ってきたゲームは18歳未満の人はプレイできない種類のゲームなんですけど、内容的には10代の早い時期にプレイした方がいいようなものだったと思っています。ゲームと小説は別物ではありますが、それでもスピリット的には共通していますので、この本は特に18歳未満の人に読んで欲しいと思います。


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